血管が硬化する弊害
動脈と静脈、毛細血管あらゆる血管をつなぐと地球2周半(約10万㎞)になるといわれています。血液は生涯、酸素、栄養分、老廃物、水分を運び続けます。そして加齢とともに弾力を失い硬化していきます。また加齢以外にメタボリックシンドロームが進むことも、動脈硬化のリスクを高めます。
血管をホースに例えると、新しいホースには弾力性があり、古くなって硬くなると、亀裂などの損傷によって水漏れを起こします。ホース同様、血管も動脈硬化が進行し、損傷することで心筋梗塞、脳梗塞、脳出血、狭心症など重大な疾患を引き起こす可能性が高まります。
心臓は毎分5リットルの血液を動脈に押し出し、常に拍動の衝撃が加わっています。血管が硬くなり衝撃が与えられると血圧は上昇します。血圧が高くなればさらに血管を硬くします。因みに静脈は動脈のように太くはなく、高い圧力がかからないので、動脈のように硬くなりません。ゆえに柔らかく保つ必要があるのは、太い動脈ということになります。
なぜ血管を伸ばすのか?
❝血管伸ばし❞といいますが、血管を直接伸ばせるわけではありません。ここでいう❝血管伸ばし❞とは、血管の通っている付近の筋肉をストレッチすることで、血管の生理作用を促進させ、血管を柔らかくすることを言います。一昔前では一酸化窒素といえば、車の排気ガスに含まれる、大気汚染物質のことを思い浮かべるかもしれません。ところが最近の研究でNO(一酸化窒素)は、血管を健康な状態に保つ、重要な物質として注目されているのです。
血管は外膜、中膜、内膜の三層からなり、血管の内側は血管内皮細胞という薄い細胞の層で覆われています。その血管内皮細胞がNO(一酸化窒素)を産生します。そして血流が良くなると、NO(一酸化窒素)の産生を促進することで、血行促進と血管改善の好循環が生まれます。そのことによって動脈硬化を防ぎ、脳卒中や心筋梗塞など、重大な疾患のリスクを下げることに繋がります。また血管をしなやかに保ち、血流を良くすることは、温活にとって必須です。
❝血管伸ばし❞は外側からの刺激により、硬くなってしまった血管を柔らかくします。ストレッチやウォーキングなどの有酸素運動はNO(一酸化窒素)の産生にとって効果的です。そして、特に太い血管周りの筋肉を伸ばすことは効率よくNO(一酸化窒素)の産生を促進します。
NOの働き
NO(一酸化窒素)はアルギニンが酸素と反応し、NO合成酵素の作用によって、シトルリンに変換される過程に於いて産生されます。
NO(一酸化窒素)は細胞膜を通過して、血管の平滑筋に作用し血管が弛緩されることで、血管の拡張が促されます。血管は拡張されることでしなやかになり血液の流れをよくします。
また、NO(一酸化窒素)には、血栓が出来るのを防ぐ、血管保護作用があることが分かってきました。血管を若く、そしてしなやかに保つために欠かせないのがNO(一酸化窒素)なのです。NO(一酸化窒素)の生理機能への作用が発見されたのは1980年代と割と新しく、カリフォルニア大学ルイス・イグナロ教授含む3人の研究者達は、NOが循環器系の信号伝達物質であることを証明し、1998年にノーベル医学・生理学賞を受賞しています。
動脈硬化は、血管の一番内側にある内皮細胞の機能低下によって始まります。
加齢+生活習慣の悪化(生活習慣病)= NO(一酸化窒素)の分泌減少
NO(一酸化窒素)が不足すると血管は硬くなり、逆に十分に放出されていると、血管はやわらかい状態に保たれます。内皮細胞から十分にNO(一酸化窒素)が産生されるかが、動脈硬化を防ぐ上で大変重要になってきます。
加齢や運動不足による筋力の低下、食生活の乱れ、不規則な生活などによる、NO(一酸化窒素)の減少が、動脈硬化のリスクを高める原因になります。更に、喫煙や高血糖は、内皮細胞の障害を起こし、血管が広がりにくくなると言われていますので、飲酒や喫煙、甘いものの取りすぎな方は十分な注意が必要です。
運動によるNOの増やし方
NOを増やす方法の一つが、筋肉を収縮させるストレッチなどの運動です。筋肉は収縮させることで、血管を圧迫し血流を良くします。中程度の運動が効果的で、ウォーキングや水泳などの有酸素運動はおすすめです。ただし、あまりにも激しい運動になると、内皮細胞の機能を低下させ、動脈硬化が進む逆効果になるのでご注意ください。
・内皮細胞は血流が速くなると、血管拡張物質である一酸化窒素(NO)を産生して放出します。放出された一酸化窒素が中膜にある平滑筋に一瞬で浸透します。その生理作用により、平滑筋の緊張がゆるんで血管が広がります。
日常生活の動きを少し工夫するだけでも、NO(一酸化窒素)を増やすことが可能です。継続的に動かすことが血行促進、ひいては温活にとっても効果的です。なるべく座りっぱなしにならないよう心がけ、歩く速度を少し上げるとか、通勤や家事のタイミングで踵上げをするなど、ご自身の生活リズムにあったものを取り入れましょう。デスクワークやテレビを観たり日常生活の場面で踵上げ運動や、太ももや腹筋に軽く力を入れて姿勢をキープする程度の負荷でも、NO(一酸化窒素)を増加させる効果があります。
※参考文献
「血管を鍛える」と超健康になる!: 血液の流れがよくなり細胞まで元気 著者 池谷 敏郎 (知的生きかた文庫)
正座
何気におすすめしたいのが正座です。長く正座をして足を延ばしたときにジーンとした感覚はお分かりになるかと思います。そのジーンとしている時がまさにNO(一酸化窒素)が放出されている時なんだそうです。血圧計で腕を圧迫して開放するとジーンとするのもそうです。正座は血流が悪くなるとか膝を痛めるなどデメリットはよく耳にします。
しかし、その本質には長時間正座をしても、弊害がある人と無い人がいることです。想像するに体の使い方が違っていて、痺れたりひざを痛める人は、何処か一か所に力が偏っている可能性が高いです。逆にどこも痛めず長時間正座ができる人は、インナーマッスルで維持されているのではないかと思います。所謂「体幹が強い」というやつです。その体幹が鍛えられることも血流を良くすることに繋がります。
正座をする時の注意点としては、痛いのを我慢するのではなく、いかに楽な状態でキープできるかを意識してみるとよいかと思います。なれない方はほんの短い時間、軽いストレッチ程度で初めて見るのもいいかと思います。根性で続けるのは足を痛めるので絶対にやめましょう。
血管伸ばしストレッチのやり方
太い動脈付近の筋肉を伸ばすことが、NO(一酸化窒素)を放出するのに最も効果的です。NHKの番組「トリセツショー」などテレビでも紹介されている「血管伸ばし運動」をご紹介しておきます。
・鼠径部付近の大腿動脈を伸ばします
- 正座の姿勢から片足を後方に伸ばす。
- 目線は前を見て、背中を伸ばし足の付け根を意識して10~20秒間、呼吸は止めずにしっかり伸ばす。左右3回が目安。
・膝裏を通る膝窩(しっか)大動脈付近を伸ばす
- 足をまっすぐ前方に伸ばし目線は前。
- 両手で膝を押さえ、呼吸を止めずに10~20秒間キープ。左右3回が目安です。
・太腿の大腿動脈付近を伸ばす
- 足を延ばした姿勢で座り目線は前を見る。
- 片足をつま先が真後ろを向くように膝を折り曲げ、太腿の前側を伸ばす。1回10~20秒間キープ、左右3回が目安です。
・外腸骨(がいちょうこつ)動脈付近を伸ばす
- 仰向けの姿勢で頭を床につけ、片足を両手で抱える。
- 太腿をお腹に近づけて腿の裏側を伸ばす。呼吸をしながら10~20秒間キープ。目安は左右3回です。
・ふくらはぎの奥を通る太い後脛骨(こうけいこつ)動脈付近を伸ばす
- 片足を膝立にして前傾で座る。踵はしっかり床につける。
- 太腿を胸で押し、ゆっくり体を前に倒し10~20秒間キープ。左右3回目安に行う。
ハンドグリップ法
最後にご紹介するのが、上半身を使ったNO(一酸化窒素)を増加させる方法です。アメリカの心臓学会でも効果が認められ、実施されています。1日1回で効果があるとされてますので、気軽に取り入れられます。血圧が上180の下110以上の高血圧の方は、医師に相談してから行うことをお勧めします。
- 指と指がくっつかない程度で丸めたタオルを握る。
- タオルを心臓より上の位置で静止。
- 3割の握力で2分間握ってキープ、呼吸は止めない。
- 交互に1分間のインターバルを挟み、2セットが目安。
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